マイノリティ・トレンド(続)(バガジンプラス記事から)

●自分のお客様を把握し、的確なアプローチを
商品は、大手企業が作ろうがクリエイターが作ろうが、手を離れて独り歩きして
いくものです。しかし、その商品の価値をエンドユーザーにまで一貫して伝えて
くれる仕組みを作り上げることは、非常に難しいことです。
「もの(商品)だけ見てくれれば分かる」と言うクリエイターもいますが、見た
だけでは分からないような、その商品にまつわる価値をどうやって伝えるのでし
ょうか。
デザイナーの話したことがバイヤーに伝わり、バイヤーに伝わったことが販売員
に伝わり、それがきちんとお客様まで伝わるルートを作ること、自分の手を離れ
ても商品が売れるための準備をすることが重要だと思います。
伝えていく過程を通じてお客さんを増やしていくんじゃないでしょうか。
また、自社ブランドに対してのお客様の購買意識レベルは様々なんですが、
ブランドを全く知らないお客さんであれば、まず、その人の注意を惹き、興味関
心を持ってもらい、欲しいと思わせて買ってもらう、という様にストーリーに沿
って次のステージ、段階に誘導していくんです。
ブランドの名前も知らない人に、いきなり「買ってください」はないですし、
価値が伝わらなければ、好き嫌いと価格の安さだけで判断されてしまいがちです。
逆に既に欲しいと思っている人に今さら広告を見せてもしょうがない。
お客さんがどの段階にいるかによって、アプローチの仕方や仕掛け方も変わって
きます。つまり、自分のお客さんをしっかり把握していなければ、この作業はで
きないのです。
展示会での見せ方からお店に卸すまでのルートも、このストーリーに当てはめて
考えることが出来ますね。
バイヤーから見ても、ものだけの勝負であれば、試し買い的に単品でピックアッ
プする取引きしか意識しませんが、きちんとブランドを売り込んでお客さんを育
てるという姿勢が見えれば、「売り場でコーナーを取ろうか」と考えるようにな
るでしょう。
単品だけの勝負では、値頃感で大手企業の作っているものにはかないません。
若手クリエイターは、ものを売るという発想ではなく、自分のブランドを好きな
お客様や取引先を増やしていく考えにシフトしていった方が、継続的なビジネス
がやりやすいと思います。
●参考 マーケティングプロセス
A:Attention(注意)
  全く名前を知らない、存在を知らないものは購入することができません。
  まずは消費者の注意を引いて、ブランドや商品の存在に気づいてもらいます。
    ・プレス対策
    ・広告
    ・DM発送

I:Interest(興味、関心)
  聞いたことがある、見たことがあるだけの商品から、内容に関心を持っても
  らいます。実際に手に取ってもらってじっくり見てもらう段階等です。
   ・展示会出展
   ・資料請求
   ・ホームページでの検索対策

D:Desire(欲求)
  関心があっても欲しいと思える魅力が無ければ購入にいたりません。どうし
  ても欲しい、買いたいと思わせる魅力を提示する段階です。
  主に商品力勝負です。
   ・商品デザインの見直し
   ・パッケージ
   ・プレゼンテーション

C:Conviction(確信)
  その商品が本当に良いものかどうかという確信を得ることで購買に至ります。
  他商品と比較したり、使用者の声、有名人の推薦などの証拠を用います。
   ・ホームページ、会社案内の見直し
   ・顧客の声データなどの収集

A:Action(行動)
  購入するという行動。実際に行動を起こしてもらいやすいように決断を促す。
   ・クロージング・提案営業
   ・商品保証、返品など
   ・値引き、セット販売、限定商品など

S:Satisfaction(満足)
  消費者の多くは商品を購入した後に「この商品を購入してよかったのかか」
  という不安を持ちます。その不安を解消して、リピーターに育てます。
   ・修理サービス
   ・アフターフォロー
   ・ニュースペーパーの発行
●「欲しいが市場に無い」ものを見つける
クリエイターは独創的なものを作っていると思われていますが、そうとも限らな
いことが結構あります。
その理由を突き詰めると、「デザインソースになる井戸の掘り下げが浅い」とい
うのが見えてきます。コピーという事ではないんですが、芸術的な素養であると
か文学的素養など、デザインのネタ元となる情報量や知識、経験が少ないため、
どこかで見たことのあるものを何となく作ってしまう。
クリエイター、デザイナーという仕事とは別ジャンルで、例えば「民族衣裳が大
好き」とか「化粧品にとても詳しい」というような、自分がとことんこだわって
いる知識や経験の深みを持つ人は強いと思います。
そこからデザインソースを引っ張りだしてモチーフにし、自分のデザインに応用
する事ができるのです。
商品を作るために自分だけの発想の源泉が無いと、単に素材とパーツとデザイン
を組み合わせる編集作業だけになってしまい、独創的なものは作れません。
デザインソースの世界観が深ければ深いほど、その世界観が好きな人が集まって
きます。その人たちは高くても欲しいものは購入してくれます。
さらにその人達からも役立つ情報を得ることが出来て、それを基に商品を開発し
たり、世界観をもっと掘り下げることができる。
このように自分のブランドを核にしてコミュニティが出来てくることが理想型だ
と思うんです。
「ものを売るだけ」ではなく、「情報を提供」してあげて、その「世界観を共有
するお客様を育て」、ブランドの「世界観を広げる」というアプローチは、大手
企業にとってはかなり手間なのです。
組織体制であることが逆にネックになるんです。
企画・デザイン、販促、営業といった各部署が意識を1つにしてやらないと、この
やり方は非常に難しいですから。
その点、クリエイターは最初から最後のお客様と関わるところまで、やろうと思
えば自分ひとりで出来る。目が届く範囲隅々まで、自分のこだわりを薄めること
なくアプローチができるのが大手企業に対する最大の強みですね。
さて、「お金(ビジネス)のことを考えるのはクリエイターではない」と考えて
いる人もいるようですが、ものと自分の間だけの関係でもの作りをしているので
あれば、それはアーアイストか趣味の世界のどちらかです。
純粋にデザインだけをしたいのであれば、企業のデザイン部門に就職すべきだと
思います。独立してやるということは、9割は経営の事を考えなければ成り立ち
ませんから。
ですが、常に拡大成長を求められる企業と違って、独立したクリエイターは自分
の納得する売上や利益、仕事時間のバランスを取ろうと思えば取ることができる。
少量だけど自分がこだわって作ったものを、その価値が分かる人、欲しいと思っ
てくれる人だけに売っていくのも1つのやり方として選択できる自由がある。
無理をして大量に作って売らなくても、自分が幸せを感じ生活できる範囲の収入
であれば、事業規模をその段階でストップすることも可能なんです。
商品というものは「どこでも売っていて、どれか安いのを買えばいい」というも
のと「どこにも売ってないから、いくら高くても買いたい」という2種類に大きく
分けられます。
前者は大手企業の商品であり、後者がクリエイター、デザイナーの商品。
クリエイターが作るべきものは、マーケットに溢れているものと同じようなもの
ではしょうがないのです。
皆が欲しがっているけど市場に無いものをどうやって探すか、「欲しいんだけど
形として商品になってない」商品を見つけだして作り出す事が、独立したクリエ
イターにとってとても重要な事であり、ブランドビジネスを成功させるポイント
だと思います。

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