マイノリティ・トレンド(バガジンプラス記事から)

先日上記のバガジンプラスから「村長の立場からクリエイター向けに話をして
ほしい」と取材を受け、その記事が掲載されましたので、編集部の許可を得て、
一部修正のうえ紹介します。
●今のクリエイターに求められているもの
クリエイターにとってここ最近の市場は厳しいのではないか、と感じています。
というのは、大手メーカーや問屋が、これまでクリエイターが作っていたような
ニッチ分野まで追いかけて、本来棲み分けていた部分、ボーダーラインが無くな
ってきているような気がするからです。
大手企業が工業製品的ではない手作り感のある商品まで、手がけるようになって
きました。
片や知名度が低いクリエイターブランドの価格が高い商品、一方は、ある程度知
られている大手企業ブランドで値頃感のある価格に抑え、クリエイターが得意で
あったクラフトタッチの商品を出している、そんな状況で若手クリエイターが戦
うというのは、非常に厳しいものがあると思うんです。
マーケットを見ると、以前はある程度若手クリエイターの商品を買い付けていた
セレクトショップでも、その予算を減らしつつOEMによる自社製品にシフトし、
クリエイターの商品を扱うスペースが縮小するところもあります。
仕入れるにしても、定番品としてではなく、売場の演出に繋がるような雰囲気の
目新しいもの、個性的なものを少量ピックアップする程度になっています。
そんな現状のなか、クリエイターに求められているものは何か?をお店サイ
ドの視点で考えることも必要ではないでしょうか。
あるバイヤーは「自分の店をよく見て欲しい。この店ならどのような商品だった
ら置くかということをちゃんと想定してプレゼンし、売り込んで欲しい」と言っ
ています。
その店にある主力商品とバッティングするようなものを提案しても、まず置いて
はもらえません。テイストが全然違ってもダメ。
「店の売上げの柱となるものではなく、アクセントになるものが欲しい」という、
お店の立場をきちんと認識した上での提案をしなければなりません。
安定して売れるものというよりは、大手には作れないようなもの、お店に新鮮さ
やシーズン性をだすものが若手ブランドに期待されていると感じます。
●絞り込むことで、選択肢を広げる
しかし、真面目なクリエイターは、正攻法できっちりモノを作ってきます。
そうなると、最も大手企業との競合が多い市場に、競争の激しい商品で入ってい
くことになります。
例えば、トレンドを追いかけた商品。大手企業は豊富なバリエーションで展開し
てきます。商品の幅が広いとお店もその中から選択することが出来るし、コーナ
ーも作りやすく扱いやすい。早く安く仕入れることもできます。
似たようなテイストのものをクリエイターが作っても、圧倒的に数が少なく選択
の余地がありません。
さらに、問屋のデザイナーが1シーズンに100型デザインしているとすれば、クリ
エイターは10型というのが現状です。
マーケットでは何が売れて何が売れない、というフィードバックもされないまま
に、偏った情報でものを作っていることになります。
となると、やはり大手と競い合うようなトレンド商品での勝負は厳しいのです。
(ただ、まったくトレンドを無視しても売れない、という部分もあるのですが…。)
今回のキーワードにもなっている「マイノリティ・トレンド」のように、すごく
絞り込んだマーケットをいかに自分で作っていくか、というところが重要になっ
てくると思います。
大手企業は総合力、品揃えの広さで戦い、できるだけお店に来たお客さんを逃さ
ないようにする。それに対してクリエイターは、「あれもやるこれもやる」では
なく、その中のどれかを切り崩す、一点突破するという考え方で立ち向かわなけ
ればいけません。
例えばアイテムで考えると、トート、ショルダー、ボストン、リュックなど、ブ
ランドの中で色んなタイプのバッグを作ると、1つのアイテムの中での選択肢が1
つしか無いという場合が出てきます。その限られたアイテムだけで、ブランドの
好きか嫌いかを判断されてしまうのです。
それではボストンだけに特化し10型作ったとしましょう。そうすると、ボストン
バッグを探している人にとっては大手企業のブランドよりも選ぶ余地があり、そ
の中で気に入ったものを買ってもらう確率が高まる、と言う訳です。
アイテムを絞ることで、お客様にとっては逆に選択肢が広がるのです。
大手企業の商品と同じ土俵で勝負する場合、局所的な戦いで勝てる場面を作って
いかなければ売れません。
今はアイテムの事を話していますが、それは、ブランドのコンセプトの深み、
世界観の深み、といった部分でも同じ事が言えるでしょう。
●ものを売ることよりブランドのファンを作る
さて、ではクリエイターはどうやって「局所的に勝てる場面」を作るかということ
ですが、若手ブランドやクリエイターだからこそできる事、大手企業に対して強
みを持てる事は、コンセプトの「背景になる情報量を好きなだけ増やせる」事だ
と思います。
例えば、「サッカー好きな人のためのバッグを作る」というテーマを決めた時、
大手企業ではあまりその背景は重視せず、サッカーというモチーフだけに着目し、
深く掘り下げなくても商品を作ることは出来ます。
むしろ購買ターゲットを広くするために、こだわりすぎることができません。
一方、クリエイターがそれを作る時、サッカーグッズを知り尽くし、その分野で
はスペシャリストだというほどの詳しい情報をベースにして商品を作ることが勝
ち目のある戦い方だと思います。
例えば、フットサルとサッカーとでは、使用するグッズも違うのだから、バッグ
も違うはず。「なぜ違わなければいけないのか、どういう機能が必要なのか」と
いうことをきちんと説明して作れるほどの情報量を持つことが、クリエイターと
して必要なことではないでしょうか。
例えば、デザビレに入居しているアクセサリーのクリエイターで、株式会社マニ
ファニの谷さんがいますが、彼は昆虫への造詣が非常に深く、豊富で詳しい知識
を持っています。
彼の作る昆虫をモチーフにしたアクセサリーは、昆虫の世界観のようなものが背
景にあって、そこから生まれてくる背景の広がりがすべて商品に活かされ付帯し
ている。
この点に関しては情報量が圧倒的で、大手企業と戦っても勝てる場面ができてい
ると思います。
若手クリエイターのブランドで、そういった情報量も含め「語るところ」をきち
んと持っているかが問題です。商品説明を求めた時に、色、柄、素材、形といっ
た、目に見える部分しか話せない人は少なくありません。
「どうしてその形が生まれてきたのか」という、その人なりのストーリーだとか
バックボーンになる趣味や特技といった部分を知ることによって、そのブランド
や作った人への興味も湧いてくるものだと思います。
クリエイターは単に製造するだけでなく、作ってさらにブランドを好きにさせる
ことが最終的な目的だと私は考えています。
「商品が売れる、売れない、何個売れた」というように、ものベースで勘定する
のではなく、小売りに近い発想で「このブランドを好きなお客さん、コアなお客
さんは何人いるか、機会があれば買ってくれるお客さんは何人いるか、名前を知
っているお客さんはどの位いるんだ」と、お客さんを集めることがブランド活動
の最終目的だと思うんです。
ブランドを好きになってくれるファンを増やす活動をどれだけするかが、ブラン
ドコンセプトとかブランドの見せ方で大事な部分。
むしろこの活動の方がクリエイターにとっては大切なことだと思います。
(つづく)

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