上野公園ではたまに大道芸を見ることができますが、見ている人を驚かせ、楽
しませる技術や演出には学ぶところもたくさんあります。
さて、ずいぶん前になりますが、マジシャン(奇術師)のプロとアマの違いを
聞いたことがあります。
「アマは自分の満足にこだわり、プロはお客様の満足にこだわる」というよう
な内容だったと記憶しています。プロはお客様をどうやって驚かせようか、感
動させようかということを優先させ、一番自信のあるマジックを磨きます。失
敗して場を白けさせないように練習を重ね、演出に知恵を絞るのだそうです。
しかしアマチュアは誰もできないような仕掛けにこだわったり、技術にこだわ
るのだそうです。珍しいものや、斬新なマジックを好み、中途半端な完成度で
も演じてしまいます。だからお客様も白けてしまうのですが、気にしないよう
な人もいるそうです。せっかく高度な技術を持っていても、つまらないのです。
これはまさにブランド作りにもあてはまるものではないでしょうか?
例えば、デザインについて考えてみると、アマチュアの中にも、ものすごい才
能や技術をもった人はいるでしょう。
しかし、その人たちがみんな自分のデザインを通じてお客様を喜ばせようとし
ているか、といえばそうでもありません。作品を完成させ、自分が満足すれば
終わりなのです。
アマチュアはお客様を喜ばせるより、まず自分が楽しくなること、満足するこ
とを優先します。だから、自分が関心あるところにこだわります。
コストを無視して素材にこだわったり、
使い人を無視してシルエットにこだわったり、
得意ではなくても自分でパターンを引くことにこだわったり、
新しい機器や珍しいソフトにこだわったりします。
さらに、自分を認めてくれたり、気が合う仲間と、まるで仲良しサークルのよう
に仕事をします。
アマチュアならそれでいいのです。好きなことにこだわれるのが、アマチュア
の特権なのです。商品が完成するまでに力を注いだら終わりです。
たとえ売れなくても、反省することもなく、「好きな人だけが買ってくれれば
よい」とか「このデザインの良さをわからないのはバイヤーのレベルが低いか
ら」と、自分に言い聞かせて納得することができるのです。
ところがプロはそうではありません。お客様を満足させる=喜ばせることにこ
だわるのです。そのために、何に、どのようにこだわればよいのか、というこ
とに知恵を絞り、緻密に計算します。
どんなブランドストーリを作ればワクワクしてくれるのか
どのようなコーディネートにすれば気にいってくれるのか、
どのようなシルエットにすれば喜んでくれるのか、
どのようなプロモーションツールで演出すれば驚いてくれるのか、
誰をモデルに使えば憧れてくれるのか、
どんな接客をすれば満足してくれるのか、
自分のもっている技術や才能をどうやって活かせば、
お客様が一番喜ぶ姿を見ることができるか・・・・を考えます。
自分だけでは足りなければ、他から力を借りることもします。
まるで、好きな人にプレゼントを贈るかのように考えぬくのです。
(プレゼントでもそうなのですが、相手に欲しいものを聞いてしまっては喜び
が半減しますから、相手の欲しいものを、相手の予想を超えて作るのです。)
相手が喜ぶことが何より優先するので、嫌いな仕事、つらい仕事でも我慢する
ことができます。あえて困難な道を選んだり、苦手な業者とも付き合うことも
厭わないでしょう。
プロにとって売り上げというのは、芸人がもらう「おひねり」や「投げ銭」み
たいに、お客様が喜んで、満足してくれた気持ちをお金に託していただくこと
なのだと思います。
だから喜びを与えているかどうか、を売り上げで確認します。売り上げが足り
ないのは、まだまだお客様に喜びや満足を与えていないからだと素直に反省し
ます。
そして、相手を喜ばせるためには、むやみに努力すればよいのではなく、頭を
フル回転させなくてはいけないということを知っているのです。