価値を伝えるのは誰のため?

私の専門分野であるマーケティングというのは「価値を伝えていく」ことを基
本姿勢としているので、伝えていくことに抵抗感を持っているクリエイターに
向かい合うと、どうしたらよいものか答えに窮してしまいます。
あるクリエイターと一緒に本人のプロフィールを考えているときに「苦労して
技術を身につけた」という表現を私が提示すると、「苦労と言う言葉は使いた
くない」というのです。
他にも
「聞かれないのに(パンフ等で)商品説明をするは売り込んでるみたいで否だ」
「商品だけ見てもらって価値を判断してほしい」
「自分からはオススメしない、相手に決めてほしい」等など
どうも自分のブランドや本人の価値を伝えることに抵抗があります。
どうしてそう考えるのか、いくつかの理由が考えられるのですけど、
(原因の全てではないのですけど)多くのクリエイターについては感受性が強
いことと、お客様への誠実さが原因だと思うのです。
そのクリエイターの周りに、
 商品価値を誇大表現してお客様を騙すように買わせる人や、
 どんどん商品を勧めて無理やり買わせてしまう人、
 自分のプロフィールを偽装してまで自分を偉く見せたい人、
 苦労話を売り物にしてお涙ちょうだいで買わせよう、
というお客様に対して不誠実な同業者がいて、
クリエイター自身は、ものづくりとお客さまを大事にしているからこそ、
そういう不誠実さというかお客様を騙すような手法に嫌悪感があり、
その嫌悪感が、自分自身やブランドの価値を伝えることの抵抗感になっているの
ではないかと思えるのです。
また、そのクリエイターが特別な才能や技術を持っているために、
同業者がわざと足を引っ張ろうとして、そのクリエイターの「いいとこつぶし」
をしているからかもしれません。
活躍しないように目立たないように呪いの言葉を投げかけて、クリエイターの
輝きを奪おうとするのです。
もしくは「どんなものでも安く買い叩きたい」おばちゃんの欠点探し攻撃に合
ったのかもしれません。
感受性が強いとその言葉に影響されて自信を喪失し、価値を伝えてトラブルに
なるよりも、商品そのものを見てもらって、それだけで判断してもらおうと考
えてしまうのでしょう。
私は、価値には適正な伝え方があると思っています。
大げさでもなく、卑下するのでもなく、ちょうどの大きさで伝えるのです。
お客様を騙して、操作して買わせるのではありません。
お客様に選択肢と情報を提示して選んでもらうのです。
もちろん価値(メリットとデメリットも)を理解してもらうことも必要です。
お客様を騙そうとするときには、その受益者は自分自身です。
自分が儲けたいがために、相手を犠牲にするのです。
そのために、嘘をついたり、誇大表現したりというテクニックを使うのです。
もしくは自分の努力や苦労や経歴などを自慢したい、褒めてほしいという気持ち
で表現してしまうのでしょう。それもやはりお客様のためじゃなくて、
自己満足のためなのです。
しかし、それではお客様との継続的な関係を築くことができません。
一過性の付き合いならいいことだけを伝えて、
その場だけの売上げが立てばいいでしょう。
しかし、本来クリエイターが価値を伝えるというのは、お客様を喜ばせ、満足
させ、その結果として継続的な信頼関係を築くことが目的だと思うのです。
だから継続的な信頼関係を築くためには、何を伝えればいいのか、
どのように伝えればいいのか、そしてどう感じて欲しいのか、
ということにも向かい合わなくてはならないのです。
お客様がクリエイター自身やブランド、商品の価値を理解し、さらにクリエイ
ターを鍛える注文を出し、クリエイターもそれに応え、さらに上を行く提案をし、
価値を伝え、お客様を喜ばせる、
という「互いに高めあう関係」ができれば理想的だと思うのです。
価値を伝える、その先が自分に向いているのか、お客様に向かっているのか、
誰のためなのか、という方向が大事なのだと思うのです。
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さて、7月末頃の繊研新聞にメルシーボクーの宇津木さんのコメントがありました。
参考までに引用します。
(前略)私にとって店とは楽しさを提供する場。店にくるお客さんに買い物を
楽しんでもらいたい。だから「服プラスアルファ」で店のエンターテイメント
性も大切にしています。
店は商品を売るだけではなく、人とのつながりを感じるところだと思うんです。
たまたま私の表現方法は服ですが、服を通して伝えたいのは楽しさ。それと夢。
時として夢は無駄なものと思われてしまうかもしれないけれど、スタッフにも
お客さんにも夢をもってもらいたい。
その核の部分を崩さずに伝えていきたいですね。
私の考える販売は、ずばり愛を伝えること。
販売員さんの態度でその日の気分が変わったりする。
接客ってすごく重要です。
私の楽しんでいる気分をそのまま伝えてほしいと思っています。
数ある店の中でお客さんに「ここで買いたい」って思わせるには、スタッフの
明るさが必要ですからね。
販売員が自ら楽しんでいないとお客さんに楽しさは伝染しない。
そのために、作り手も売り手も、努力することも楽しんでいます。
今の世の中、辛いこともたくさんあります。
「メルシーボークー」(ありがとう)という言葉は
世の中を明るくする合言葉だと思う。
服で、店で、人々の気分を明るくする、いい菌をばらまいていきたいです。

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